RC2007手動マシン
高専時代も含め,ロボコン5年目の2007大学ロボコン.
私の信条である「走るダイナミックビルディング(高速に走る頑丈でシンプルなマシン)」を実現しようと意気込んではいたものの, 残念ながらそれを製作する機会に恵まれず,不本意な結果になってしまいました.
最初は「優勝します」と息巻いていたものの,日を追うごとにその声は弱々しくなり,結果は屈辱の予選リーグ敗退.
関係者の皆様には改めてお詫び申し上げますと共に,これを糧にして後進の指導にいっそう励みたいと思います.
大型大砲不発に終わる!/賢い手動マシンは賢くなかった!?
RoboTechの戦略会議において,ある重大な論議がなされていた.
その決議が後に大きな波紋を呼ぶとは,誰が予測したであろうか?
その論議とは,Robocon2007の手動マシンに,求められる能力は何か…ということについてであった.
最終決議は以下の5つに集約される.
- パールを”大量に”取り込む.
- 自動マシンにパールを渡す.
- 1点アイランドに得点する.
- パールを飛ばして2点アイランドに得点する.
- 相手の1点アイランドのパールを外す.
- 但し,上記5つの項目は全て「迅速」に行われねばならない.(そのために自動走行モードも実現.)
この6つの項目を満たす手動マシンは確かに「最強」を名乗るにはふさわしい.
「最強」マシンを作ることはロボコニスト達の共通の夢であるが,現実はそう甘くない.
ロボコニスト達の進む道は,「最強」マシンを獲得できるか,妥協したマシンを完成させるか,未完成のマシンと共に自滅するか, の3つである.
そしてRoboTech2007メンバーの進んだ道は「自滅」であった.
2点アイランドに得点する機能は実現した,パールを大量に蓄えて自動走行で得点するモードも実現した.
しかし,それらを統合したシステムはあまりにもアンバランスであった.
ロボコンで陥りやすいのは,華やかな「フィニッシュ」の機能にばかり気をとられ,
取り込み等の「つなぎ」の機能,「走行する」等の基本の機能の開発を疎かにしてしまうという状態である.
サッカーで言えば多彩なシュート技を持っているが走れない,パスできない選手といったところ.
大学ロボコンで常勝を誇っていた東京大学RoboTechですらも,このロボコン初心者がはまる泥沼につかってしまったという点では驚きを隠せないが, ロボコン経験者である私の指導力が不足していたからというのも原因の1つであると思う.
もちろん,私は「2点アイランドにパールを飛ばして得点することは”夢”だ」,「高速で得点するにはマシン内に大量に蓄えれば良い」といった甘い言葉に 陶酔しきっていたわけではない.
むしろ,「フィニッシュ」の機能よりも基本の機能を重視すべきだという理念を持っていたはずであった.
パールを飛ばして得点できたのを見て,あるいは自動走行モードで得点したのを見て素直に喜べなかったのは, 見た目の華やかさに惑わされて基本の機能を多少犠牲にしても良いという風潮がサークル内に高まり, その方向に押し流されてしまうことを恐れていたからだと思う.
また,事実そうなったのである.
(結果的に基本の機能は完全に無視されてしまった.集団の思い込みとそれによる扇動が何よりも怖い!!)
勝利の方程式は「simple = deep」である.
勝利するマシンは洗練されたダイヤモンドの結晶のようなもの.
ダイヤモンドは見た目は華やかだが,実は炭素原子の共有結合のみという単純な原子構造で,かつそれが無色透明の結晶になるまでには長い年月と高温・高圧の条件が 必要とされる.
最初からシンプルなマシンを立案すべきである,というのではない.
どんなマシンでも,洗練に洗練を重ねることでシンプルになっていき,しかし シンプルになるほどに奥が深くなり,そして強くなっていく.
シンプル化を退化,妥協等のマイナスイメージで捉えるのではなく,むしろ進化,改善等のプラスイメージで捉えられるようになることが, ロボコニストとしての成長の証だと思う.
ハンド「お竜の手」
パールを掴む機構.
2006手動マシンの型を踏襲して作成したもの.
メインフレームは初期の設計のままで強度も申し分ないが,先端のスポンジ部分は何回か改良が加えられた.
しかし,モータの力と糸で把持するのはメカ的にトラブルも多く,事実,1回戦の豊橋戦では糸が外れてしまった.
力的には空気圧や強力なばねの方が安定である.
上下機構「お竜スライド」
これも2006手動マシンの型を踏襲して作成した.
大会直前にマシンが暴走して机に激突し,スライドレールの1本がお釈迦に.
右側のレールが肉抜きされていないのは慌てて修理したため.
手動マシンの中では一番信頼性が高かった部分.
取り込み機構「お竜の舌」
掴んだパールを取り込んでランチャにセット,あるいはスロープにセットする機構.
棒を野球のバットのようにスイングしてマシン内に入れるだけなのだが,マシンのサイズ制限内で行うのは至難の業.
パール底面の摩擦が以外に大きく,モータの速度を減速機で落としてトルクを稼いでいる.
ここも微妙な曲げ加工.
打ち出し機構「お竜砲」
パールを2点アイランドに得点するために打ち出す機構.
フリスビーのようにスピンをかけてパールの姿勢を安定させ,輪投げの要領でアイランドに得点する.
ロータリーエンコーダでローラの回転数を制御し,パールの飛距離を調整している.
そのまま打ち出すと飛距離が足りないので,伸縮機構を備えている.
スロープ機構「お竜の消化器官」
パールを1点アイランドに高速に得点するための機構.
最大5つまでをマシン後方のスロープに蓄え,流れるように得点していく…はずだったが, 取り込みに時間がかかってしまうため,最大限に活用することはできなかった.
曲げ加工の集大成とも言える作品.パールの摩擦が大きく,パールがスロープを流動するには絶妙な形状が要求される.
(スロープの傾斜が大きければ簡単なのだが,サイズ制限から傾斜角度は小さくせざるを得ない.)
吐き出し部.ラジコンサーボで開閉しているが,壊れやすくて非常に難儀した.
もうとことん曲げ加工.
足回り「お竜の脚」
マシンの命は足回り.
Robocon2006の手動マシンは足回りの信頼性が低かったので,思い切って改良した.
タイヤは,入手性が良いという点から,ラジコンタイヤを採用.
マシンの重量が大きいのでタイヤを両持ちに改造.
信頼性も高く,製作者自信の作.
小径タイヤと低減速比ギアヘッドのモータという組み合わせでOK…のはずが,マシン重量が20kgまでに膨れ上がると モータのトルク不足となり,最後にどたばたしてしまった.
タミヤ540モータではマシン重量15kg以下にしなければならない.
あと,タイヤ表面の材質はもう少し研究した方が良さそう.
今年の新たな挑戦は,「手動マシン自動走行プロジェクト」であったが,苦い結果となった.
1点アイランドに高速得点ということで,10角形の柵に沿って自動的に走行して得点していく機能を搭載した.
自動走行自体は自動マシンと同じでロータリーエンコーダを使って回転数制御するだけなので,問題なかった.
しかし,パールの取り込みに時間がかかってしまったため,得点能力の高さを十分に発揮することができなかった.
実際に手動マシンが自動走行に頼るという状況はあまりないようである.
柵に沿って走るための爪機構.柵に爪を引っ掛けて使用.